小唄 山中しぐれ
- 新水会
- 2021年3月2日
- 読了時間: 2分
更新日:2021年6月28日
〽湯煙のかじか鳴く道 山中道は
夢もはるかな 思い出小道
こおろぎ橋の欄干は 今も変わらぬ湯の香り
一夜逢えても二夜と逢えぬ 旅のお方は罪深や
出で湯の町の唄聞けば 誰かが泣いているような
民謡の山中節が挿入されていて、とても風情のある曲です。そしてとても難しい…。
家元は長らく民謡の指導もされているので、山中節の唄い方については特に厳しく稽古を付けて頂いています。
山中節は民謡の中でもとりわけ技巧的な曲なのだそうです。
節回しが複雑で、私などは途中でよく酸欠になります。
ところで、この曲の背景はいつの季節だと思われますか?
私は漠然と秋冬の唄だと思っていました。「しぐれ(時雨)」は冬の季語ですし、「湯煙」→温泉→なんとなく寒い季節のイメージ…ということで、「冬の山中温泉はさぞかし風情があるだろう、いつか行きたいなぁ」と単純に思っていたのです。
「かじか鳴く道」という歌詞はろくに考えもせず「かじか…シカ?…鹿が鳴くのは発情期…秋だ」と思って聞き過ごしていたのですが、大変な間違いでした。
「かじか」とはなにか。
本命は「河鹿」と呼ばれるカエルです。鹿に似たきれいな鳴き声から「河の鹿」(カジカ)カエルと命名された種がいるそうです。
そしてもう一つ、魚類でハゼに似た「鰍」があります。山中温泉のある石川県の郷土料理として有名で「ゴリ」とも呼ばれています。家元曰く、とても美味しいそうです。
普通に考えると魚はあんまり鳴きませんので、この曲の「かじか」はカエルだろうと考えました。しかし、少し気になったのは魚の「鰍」が山中の郷土料理に使われているという点です。それに魚の中にも、釣り上げた時に歯や鰓をすり合わせて音を出すものがあります。
なにか他に参考になるものはないかと検索していると、松尾芭蕉が山中を訪れた際に詠んだ句を見つけました。
いさり火にかじかや波の下むせび
漁の際に焚く「漁り火」、ましてや「波の下」ということですから、このかじかは魚の「鰍」でしょう。とすると、芭蕉が詠んだ鰍は、むせび”泣いて”いたのでしょうか…。
色々と想像は膨らみましたが、結局のところ歌詞に残るような声となると、カジカカエルに軍配があがるのではないでしょうか。
最初の疑問に戻りますが、カエルが鳴くということは夏の唄ですね。
とすると、「時雨」の季節感はいずこへ…という気がします。
次回は「時雨」について考えてみたいと思います。
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