「麻布七村」
麻布七村 七不思議
まず狸穴に俄善坊
気が知れないのは六本木
闇ににょっきり
摩訶般若波羅蜜多で逆さ銀杏
一本松は何代目
おばけ椿に蛙合戦 蝦蟇の池
小唄「麻布七村」の謎を追う!その四です。
作曲者である鳳富美さんについては色々なことがわかってきました。
しかし依然としてこの曲がいつ作られたのか、作詞は誰なのかが不明です。
そこで今回は、鳳さんのご主人であり、小唄の作詞家で知られる金子千章さんの著作を読んでみました。
「小唄作詞手引草」(金子千章 小唄作詞家協会出版部 昭和六十年)
検索していて見つけた「小唄新集」(土屋健・小野金次郎編 東京柏屋出版部 昭和五十四年に第4版)も一緒に。
ちなみに「小唄新集」を編集された小野金次郎さんは、俳優の小野武彦さん(踊る大捜査線のスリーアミーゴスの一人、刑事課長役)のお爺さまだとか。またニッチな知識が一つ増えてしまいました。
結論から言いますと、このどちらにも「麻布七村」についての記載はありませんでした。
しかし、「小唄作詞手引草」は小唄を稽古するものにとって非常に参考になる一冊でした。
作詞をされる方向けの内容なので、小唄の歴史を背景に「けれんもの」「上方唄」「田舎唄」「芝居物」などと分類されており、それぞれの歌詞の特徴が詳細に解説されています。
小唄ブーム当時における、作詞家グループの動向についても別章を設けて記述されていて、これもものすごく細かい。例えば昭和三十年二月二十日に開催された「第二回閑吟会」については会員の出欠はもちろんのこと、当日の席順表も載っています。正直なところ、「席順って必要かな??」と思いましたけれど、この記載の細やかさから当時の小唄に対する熱狂が伝わってきました。
この本にはそのような作詞家の会合で生まれた曲も沢山載っていますし、「小唄新集」に至っては増補により新旧併せて計1407曲の歌詞が収録されています。
これだけあればどこかに…という願いも儚く、「麻布七村」の出展は不明のままです。
そもそも小唄の歌詞というものは、「粋人、通人、文人墨客等の余技として作られた即興詩…世間の表も裏も体験した揚句に、ふと口を出た一節が手附されたのである。…(作詞というより)独り言といった方が適切かもしれない。」(小唄作詞手引草より)とのこと。
ゆえに、出展を追い求めること自体が野暮なのかもしれません。
ちなみに、当派では「麻布七村」とよく併せて唄われる「押しの一手」という曲があります。こちらは作詞作曲どちらも不明で、他流派の会ではまず歌われることがないようです。今回の調査でもこの曲名を見かけることはありませんでしたが、家元曰くこの曲も鳳富美さんの作品かもしれないとのこと。私はこの曲も大好きです。気張らず、かつ格好良く唄えるようにこれからも稽古に精進します。
「押しの一手」
押せや押せ押せ しのいで押せば
いつかひらける土俵際
勝つも負けるも運次第ならば
ならば一押し 押しの一手じゃえ
願わくばこの記事が、何か情報をお持ちの方の目にとまりますように。
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